ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『夜の桃』 石田衣良

夜の桃
期待しすぎたのがいけなかったのかもしれない。
たまたま観た俳句番組の中で、「いま、西東三鬼の俳句から取った『夜の桃』という作品を書いています」と作者が語っていたときから楽しみに待っていたのだ。
それなのに、なんて美しく官能的に性愛を描く男性作家なのだろう、と衝撃を受けた『娼年』のような冴えも、命を燃やし尽くすような恋愛を描いた『眠れぬ真珠』のような情熱も、この作品には感じられなかった。

「桃」とは、女陰であり、尻であり、女性そのものである。
物語のほとんどが濃厚な性描写で占められているものの、私にはむしろ淡白に思えた。セックスを描けば必ずしも官能的になるとは限らない好例である。描きようによっては、水を飲む姿や振り返るしぐさにもぞくりとする色気を潜ませられるのに、性描写の連続なんて芸がない。
なにも恋愛小説にエロスを求めているわけではない。けれど、この作品のテーマである「性」つまり「生」を描いたにしては、あまりに薄っぺらい。
[ 2008/07/16 ] ア行の作家 | CM(0) | TB(0)

『光の指で触れよ』 池澤夏樹

光の指で触れよ
環境問題を考えるということは、つまるところ、生き方を根本から見直すことなのだと思う。
近年、意識の高まりにともなって家庭や企業でさまざまなエコが試みられているが、どれも「塵も積もれば・・・」的なレベルを脱していないような気がしてならない。もちろん、些細なことでも、皆が日常的に行えば効果はあるだろう。
けれど、いまだ私は塵が積もって山ができたという話を聞いたことがない。なにかが変わるときは、地殻変動のような大きな力が必要なのではないだろうか。再生紙の利用や、冷暖房の温度調節などはできても、今の利便性をすっかり捨ててしまうことはできない。お金さえあれば欲しいものがすぐ手に入るこのシステムを手放すことは。
現代社会は、いうなれば消費社会である。魅力的な新製品が次々と生み出され、メディアを介して私たちを巧みに誘惑する。人の欲望は果てることがなく、その歩みの後には、大量のゴミが残されていく。
そろそろモノやお金に翻弄される輪から抜け出して、豊かな生き方を見つめてみませんか?と問うたのが、本書である。
[ 2008/05/23 ] ア行の作家 | CM(0) | TB(0)

『木洩れ日に泳ぐ魚』 恩田陸

木洩れ日に泳ぐ魚
マジックは、種が分かってしまうとつまらない。
「何か特別な力を持っているのではないか」とまで思ったものが、拍子抜けするほど単純な仕掛けであったことを知った時の、あの切ないような悔しいような気持ちはなんなのだろう。まさに、「知らなきゃ、よかった」である。
この「知らなきゃ、よかった」は、なにもマジックに限ったことではない。人生においても、真実を知らない方が幸せな時は多々ある。そもそも、真実を知ることがそれほど重要なことなのだろうか。そんな疑問を抱かせてくれるのが、本書である。
[ 2008/03/15 ] ア行の作家 | CM(0) | TB(1)

『サウスバウンド(上・下)』 奥田英朗

サウスバウンド 上 (1) (角川文庫 お 56-1)サウスバウンド 下 (3) (角川文庫 お 56-2)
★★★★☆

“とんでも精神科医”が活躍(?)する伊良部シリーズもそうだが、奥田英朗の描く人間は、世間の常識にとらわれない。自分独自の世界観を持って生きている。
本書に登場する上原一郎は、方向こそ伊良部とは違うけれど、他人の意見に左右されない、という点では本質的に同じだ。自分の信じる道を突き進み、関わった周囲の人間は彼が引き起こす面倒に巻き込まれてしまう。
[ 2007/09/29 ] ア行の作家 | CM(0) | TB(2)

『塩の街』 有川浩

塩の街
★★★☆☆

ある日突然、日本各地に巨大な塩の結晶が飛来。その隕石の落下と時を同じくして人々が塩の柱と化す怪現象が起こる。「塩害」と名づけられたその現象によって、人口は大幅に減り、被害者の中には多数の政府要人が含まれていたことから、日本は事実上無政府状態となる。治安は乱れ、人々は塩化の恐怖を抱えながら暮らしている。
本書は、ひょんなことから一緒に暮らすこととなった航空自衛官の秋庭と、両親を亡くした女子高生・小笠原真奈の二人を中心に、塩害に覆われた世界で生きる人々の姿と世界の再生を描いた物語である。
[ 2007/08/31 ] ア行の作家 | CM(0) | TB(3)