ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『新世界より(上・下)』 貴志祐介

新世界より 上新世界より 下

上下巻あわせて1000ページ以上のボリュームだが、おもしろくて一気に読み終えた。
貴志祐介の作品は『黒い家』『青の炎』を映画で観たことはあるが、活字で読むのは本書が初めて。ただ、これはグロテスクな描写のオンパレードだから、映像化は勘弁してほしいなぁ。

舞台は、いまからおよそ1000年後の日本。
人々は科学技術にかわって、〈呪力〉と呼ばれる超能力を操り、平和な社会を築き上げていた。ところが、理想郷のような世界で、子どもたちは徹底的に管理・監視されていた・・・。
前半の牧歌的な描写が、ぞっとするような後半の布石となる構成に脱帽。この盛り上げ方、さすが『黒い家』の作者だけのことはある。
[ 2008/07/05 ] カ行の作家 | CM(0) | TB(0)

『大好きな本 川上弘美書評集』 川上弘美

大好きな本 川上弘美書評集
川上弘美、初の書評集である。
え、まだ本になってなかったんだ。新聞や文庫本の解説など、あちこちで目にしていたから、既に一冊読んだ気になっていた。
本書は二部構成になっており、一部では新聞紙上に書いた書評を、二部では文庫本や全集の解説文を収録している。10年という年月をかけて集められた書評からは、読書のよろこびがたちのぼってくる。

書評本を書評するのは、なんだか妙な気分である。が、拙いなりにも書評(らしきもの)を書いている身だからこそ、他人の書評は気になるものなのだ。
読書メモと違って書評というのは、読み手の存在を強く意識するものだと思う。あらすじや読みどころを書き、自分の感じたことを文章化するのは、思考の整理という目的もあるだろうが、本のおもしろさ(ときには、つまらない本に対する不満も)を誰かに伝えたい、という意思が働くからである。
私はバイリンガルではないが、書評を書くことはある種、翻訳に通じるものがあるのではないだろうか。読書―なかでも小説を読むことは、存外感覚的なものだ。文章の意味や作者の意図を考えるのは後づけの理屈で、まず人は書かれたものをただ感じている。しんと静まりかえった空気を。秘密めいた妖しさを。ごちゃごちゃして何がなんだか分からない感じを。
難しいのが、その感覚を文章に置き換えることである。だから書き手(私なんですが)は、「透明感のある」だの、「静謐な」だの、「重苦しい」といった言葉を使って、どうにかして「本の感じ」を伝えようとするのだ。
[ 2008/04/08 ] カ行の作家 | CM(2) | TB(0)

『寺田屋騒動』 海音寺潮五郎

寺田屋騒動 新装版 (文春文庫 か 2-52)
幕末史上起こった二つの事件の現場として、後世にその名を留めることになる一軒の船宿(旅館)がある。
京都の伏見にある「寺田屋」である。ここで、1862年(文久2年)に薩摩過激派と藩主の命を受けた使者たちが切り合い、1866年(慶応2年)に坂本竜馬が襲撃された。
本書は、「寺田屋騒動」と呼ばれる、1862年に起こった薩摩藩の内紛を取り上げた史伝である。
[ 2008/03/08 ] カ行の作家 | CM(0) | TB(0)

『明智左馬助の恋』 加藤廣

明智左馬助の恋
★★★★☆

信長の遺骸は、一体どこへ消えたのか?
「本能寺の変」を巡る最大の謎を独自の仮説で展開する、三部作の完結篇。今回は、信長を死に追いやった張本人・光秀側から光が当てられている。語り手は、光秀の娘婿・明智左馬助。これまでの登場人物の中では、飛び抜けていい男である。

織田信長、羽柴秀吉、明智光秀。「本能寺の変」に深く関わりのあったこの三人の中で、一番哀れなのが光秀だと思う。
律儀に主人に尽くしたのに、望むようには報われず、天下を正すために決起したのに、長年の友ですら呼びかけに応えてくれず、強大な敵を倒したと思ったのも束の間、別の人間に天下を奪い取られ、後世には「主人殺し」としてその名を語り継がれることになる。
[ 2007/10/29 ] カ行の作家 | CM(2) | TB(0)

『おやすみ、こわい夢を見ないように』 角田光代

おやすみ、こわい夢を見ないように
憎悪の行く先 ★★★★☆

少し前に、人気漫画・『DEATH NOTE』が映画化され話題になったのは、記憶に新しい。そのノートに名前を書かれた者は死ぬ、という死神のノートを巡る人間たちの戦いを描いた物語で、とてもおもしろい。
この漫画を読んだ時、ふと、自分には殺したいほどの人間がいるのか、考えてしまった。他人に対して腹の立つことや、憎しみに近いものを抱くことはある。けれど、「殺したい」かどうか、と突き詰めて考えると、その思いはそれほど強いものではないことに気づく。
[ 2007/05/03 ] カ行の作家 | CM(0) | TB(0)