ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『秋の牢獄』 恒川光太郎

秋の牢獄
赤と黄に彩られたカバーをめくると、柿色の表紙が目に飛び込む。花布は渋い緑、しおりはこげ茶。和の色でまとめ上げられた装丁は、秋のイメージそのままである。見返しの使い方もおもしろい。装丁は、片岡忠彦氏。
本書は、その装丁が表現しているように、和の雰囲気が色濃く漂う和製ファンタジーである。いや、ホラーといってもいいかもしれない。デビュー作・『夜市』ほどのインパクトはないものの、ひそやかな中に底知れぬ闇の広がる世界は、独特である。
[ 2008/03/17 ] タ行の作家 | CM(0) | TB(1)

『光抱く友よ』 高樹のぶ子

光抱く友よ (新潮文庫)

人間関係を鮮やかに切り取る ★★★★☆

芥川賞受賞の表題作と、「揺れる髪」「春まだ浅く」の三短編を収録した作品集。
友情、親子愛、男女の愛、と扱うテーマはそれぞれ異なるものの、三編とも、“他者との関わり”という人類永遠の問題を深く追求した作品である。

大学教授の父親を持ち、おとなしく優等生の相馬涼子と、アル中の母親を持ち、早熟で不良っぽい松尾勝美。「光抱く友よ」では、境遇も性格も違う二人の女子高校生の友情を描いている。およそ共通点のない二人が惹かれあい、友情を育んでいく様子を、高樹のぶ子の筆は丹念に描き出す。作品には、女性の視点ならではの描写が散りばめられている。
涼子が家に松尾を招き家族と食卓を囲む場面は、この作品の山場といえよう。煙草を吸い、投げやりな態度で家族と接する松尾に対する、涼子の気まずい心理がうまく表現されている。
[ 2007/01/05 ] タ行の作家 | CM(0) | TB(0)

『柳生双剣士』 多田容子

柳生双剣士
うそとまこと ★★★☆☆

読後、著者の若さに驚いた。「時代小説」イコール「中高年の男性が好む本」というイメージがあるせいか、このような硬派な作品を若い女性が書くことに、目新しさを覚えたのだ。
もっとも、本書は単なる物珍しさだけではない。内容もしっかりと作り込まれており、読み応えがある。

時は、江戸・徳川家光の時代。
柳生十兵衛と瓜二つの若侍がいるとの報が、柳生宗矩の元にもたらされる。その若侍については奇妙な噂も流れており、放置できない状況に。噂は、誰が、何のために流したのか。宗矩の命を受けた十兵衛は、偽者探しの旅に出る。
[ 2006/12/26 ] タ行の作家 | CM(0) | TB(0)

『夜市』 恒川光太郎

夜市
幻想的な世界 ★★★★☆

今宵は夜市が開かれる。

書き出しの一文を読むだけで、すうっと、物語に引き込まれる。「夜市って何?」と疑問に思った者はすでに、この作品の持つ不思議な力に魅入られているのだ。

夜市は、市場だ。それは、夜開かれる、特別で不思議な市場。
そこでは、欲しいものは何でも売っている。〈黄泉の河原で拾った石〉、〈なんでも斬れる剣〉、不思議な生きもの、老化を調整できる薬、能力や自由といったものまで売り出される。ただし、客は買い物をするまで、そこから出ることはできない。
夜市へ出かけた二人の若い男女。彼らが夜市で出会ったもの、買ったものの背景には、男の悲しい過去があった。
日本ホラー小説大賞受賞作の、妖しく悲しい物語。
[ 2006/12/01 ] タ行の作家 | CM(0) | TB(0)

『ウルトラ・ダラー』 手嶋龍一

ウルトラ・ダラー
フィクションとは思えない小説 ★★★★☆

ついに、北朝鮮が地下核実験を行った。
拉致、麻薬、偽札作り、と国家主導で犯罪に手を染め続ける半島の暴挙に、予想通りという思いと、ここまで来たか、という失望と、今後に対する不安とが入り交じり合っている。

そんな情勢の中読んだ本書は、ひと際感慨深いものがあった。NHK前ワシントン支局長であり、現在外交ジャーナリストのバックグラウンドを持つ著者の手による本書は、豊かな経験と資料に裏打ちされて、圧倒的なリアリティをもって読み手に迫ってくる。出版と同時にベストセラーとなったのも、十分納得できるものだ。
[ 2006/11/28 ] タ行の作家 | CM(0) | TB(0)