ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『闇の中の系図』 半村良

闇の中の系図 (河出文庫 は 14-6)
世の中には、さまざまな才能がある。絵を描くのが抜群にうまい、歌唱力がある、並はずれた運動能力を持っている等・・・。
さてここに、ある才能に恵まれた男がいる。主人公・浅辺宏一は、嘘をつかずにはいられない。しかも、その嘘が天才的にうまいのである。しかし、胸を張って人に自慢できない才能を彼はもてあます。どれだけ巧みに周囲を騙せたとしても、それが嘘だと一番よく分かっているのは自分自身なのだから。
悲しい性にとらわれた男の転落物語なのかと思いきや、その能力を必要とする組織の登場で、一気にスリリングな展開になっていく。
[ 2008/06/20 ] ハ行の作家 | CM(0) | TB(0)

『西遊記(上・下)』 平岩弓枝

西遊記 上 (1)西遊記 下
★★★★★

ご存知、三蔵法師が弟子の孫悟空、猪八戒、沙悟浄とともに、唐の都・長安から天竺へ経典を求めて旅する物語である。
子ども向けではなく、一度しっかり西遊記を読んでみたいと思っていたところ、平岩版が出たので喜んで手を伸ばした。もっとも、かわいい挿絵に惹かれたのが一番の理由だけど。物語自体おもしろいとはいえ、この挿絵がなければ、上下二段組で900ページ近くある作品を難なく読み進められなかったかもしれない。
[ 2007/10/30 ] ハ行の作家 | CM(2) | TB(0)

『めぐらし屋』 堀江敏幸

めぐらし屋
★★★☆☆

「めぐらし屋」という言葉を思いついた時点で、この作品の大筋は出来上がっていたのではないか。それほど、センスの感じるタイトルである。最後まで読むと、やはりこの物語には「めぐらし屋」というタイトルしか考えられない、という思いが強くなる。

物語は、亡くなった父のアパートで遺品を整理していた「蕗子さん」が、表紙に「めぐらし屋」と書かれた厚手の大学ノートを見つける場面から始まる。
一冊のノートから、次々とたぐり寄せられる過去の記憶、父との思い出、父の知られざる顔。偶然と記憶に引き寄せられるように、蕗子さんは亡き父との対話の旅に出る。
[ 2007/08/31 ] ハ行の作家 | CM(0) | TB(0)

『床下仙人』 原宏一

床下仙人
★★★☆☆

こう毎日暑い日が続くと、読書するだけでも疲れる。そこで、何か手軽に読めるものを、と思って読み始めたのが、この一冊。

本書には、5つの短編が収められている。どの作品も、日本のサラリーマンの悲哀をおもしろおかしく描き出している。
例えば、表題作の「床下仙人」は、結婚4年目にして子どもを授かり、それを機に都心の賃貸マンションから郊外の新興住宅団地の一戸建てに移り住むことにした男性が主人公。不況の中、仕事はきつくなる一方で、平日は連日の午前様。自宅はちょっと横になるために立ち寄っている感覚。土日出勤・接待ゴルフは当たり前。電車を乗り継ぎ片道1時間50分もかけて通勤する毎日・・・等々。
この主人公の日常を見ていると、なんだか泣けてくる。海外の人からは、「クレイジー!」と到底理解されないような、日本のサラリーマンの姿が浮かび上がってくる。
この現状を改めて考えてみると、異常である。だが作者は、重い筆致で深刻に描くのではなく、独特の視点で切り取り、ユーモアに包んで笑い飛ばしてしまうのだ。というより、そのまま描くと、あまりにも悲惨に映ってしまうからだろうか。
[ 2007/08/13 ] ハ行の作家 | CM(0) | TB(0)

『にょっ記』 穂村弘

にょっ記
ゆるりと過ごす ★★★★☆

「日記」ではなく、「にょっ記」。
このタイトルから分かるように、本書は少々(かなり?)変わっている。歌人・穂村弘が思いつくまま、気ままに書き綴った一年間。「○月○日」と、日記の体裁を取っているが、この作品はエッセイという方がふさわしいだろう。それとも、小ネタ集か。

私が穂村弘作品を読むのは、これが初となる。“歌人”という言葉から、優雅で、美しい文章を書くのだと思っていたから、意外だった。
むしろ、本書の筆者が“落語家”と言われた方が、すんなりと納得できるような気がする。なにしろ、内容が「ヘン」なのだ。まるで小噺のようにくすりと笑えて、読み始めたら止まらない。

街中でふと耳にした会話や、思い出、夢で見たこと、妄想など、事実と虚構が巧みに入り混じった文章が、淡々と綴られている。
大抵はオチや結論のない内容で、静かにフェイドアウトしていく。その奥ゆかしさゆえだろうか、続きがなぜか気になってしまう。
「あるある」と共感できるものから、筆者の感性(妄想?)が光るものまで、一日の日記の中に、「人間の可笑しさ」がギュッと凝縮されている。

ただ本書に、人生の教訓や、生きる意味などを求めてはならない。冷静に考えれば、「だから、どうした」的な内容なのだから。
しかし、この肩肘張らない力の抜け具合が、ちょうどいいのだ。疲れた時読むと、乾いた心に潤いをもたらしてくれる。
こんな風に、慌しい日常から離れ、一冊の本に身をゆだねてゆるりと過ごす時間というのも、悪くない。
[ 2006/12/21 ] ハ行の作家 | CM(0) | TB(0)