カテゴリー [ ハ行の作家 ]
『めぐらし屋』 堀江敏幸
『床下仙人』 原宏一


こう毎日暑い日が続くと、読書するだけでも疲れる。そこで、何か手軽に読めるものを、と思って読み始めたのが、この一冊。
本書には、5つの短編が収められている。どの作品も、日本のサラリーマンの悲哀をおもしろおかしく描き出している。
例えば、表題作の「床下仙人」は、結婚4年目にして子どもを授かり、それを機に都心の賃貸マンションから郊外の新興住宅団地の一戸建てに移り住むことにした男性が主人公。不況の中、仕事はきつくなる一方で、平日は連日の午前様。自宅はちょっと横になるために立ち寄っている感覚。土日出勤・接待ゴルフは当たり前。電車を乗り継ぎ片道1時間50分もかけて通勤する毎日・・・等々。
この主人公の日常を見ていると、なんだか泣けてくる。海外の人からは、「クレイジー!」と到底理解されないような、日本のサラリーマンの姿が浮かび上がってくる。
この現状を改めて考えてみると、異常である。だが作者は、重い筆致で深刻に描くのではなく、独特の視点で切り取り、ユーモアに包んで笑い飛ばしてしまうのだ。というより、そのまま描くと、あまりにも悲惨に映ってしまうからだろうか。
『にょっ記』 穂村弘

ゆるりと過ごす ★★★★☆
「日記」ではなく、「にょっ記」。
このタイトルから分かるように、本書は少々(かなり?)変わっている。歌人・穂村弘が思いつくまま、気ままに書き綴った一年間。「○月○日」と、日記の体裁を取っているが、この作品はエッセイという方がふさわしいだろう。それとも、小ネタ集か。
私が穂村弘作品を読むのは、これが初となる。“歌人”という言葉から、優雅で、美しい文章を書くのだと思っていたから、意外だった。
むしろ、本書の筆者が“落語家”と言われた方が、すんなりと納得できるような気がする。なにしろ、内容が「ヘン」なのだ。まるで小噺のようにくすりと笑えて、読み始めたら止まらない。
街中でふと耳にした会話や、思い出、夢で見たこと、妄想など、事実と虚構が巧みに入り混じった文章が、淡々と綴られている。
大抵はオチや結論のない内容で、静かにフェイドアウトしていく。その奥ゆかしさゆえだろうか、続きがなぜか気になってしまう。
「あるある」と共感できるものから、筆者の感性(妄想?)が光るものまで、一日の日記の中に、「人間の可笑しさ」がギュッと凝縮されている。
ただ本書に、人生の教訓や、生きる意味などを求めてはならない。冷静に考えれば、「だから、どうした」的な内容なのだから。
しかし、この肩肘張らない力の抜け具合が、ちょうどいいのだ。疲れた時読むと、乾いた心に潤いをもたらしてくれる。
こんな風に、慌しい日常から離れ、一冊の本に身をゆだねてゆるりと過ごす時間というのも、悪くない。





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