ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『雨の日も、晴れ男』 水野敬也

雨の日も、晴れ男 (文春文庫 み 35-1) (文春文庫 み 35-1) (文春文庫 み 35-1)
タイトルに引かれて、読んでみた。
二人の幼い神のいたずらで次々と不幸に見舞われる男が、明るく立ち向かっていく物語。
会社をクビになる、円形脱毛症になる、振り込め詐欺にあう、家が焼ける・・・。一日のうち、ほぼ一時間間隔で悪い出来事が起こるという悲惨さ。ところが男はそんなピンチを笑いに変えて、前向きに生きていく。

現実を受け止め、着実に前へ進むことで自ずと道は開けてくる。
人を楽しませること、つまり周りの人を幸せにすることは、自分自身の幸せにもつながる。
幸・不幸を決めるのは、環境や他人ではなく、自分の心。
シンプルだが、人生の要諦を教えてくれる一冊だ。

一時期、寓話形式の自己啓発書をむさぼり読んでいたことがあるが、およそ人生訓というものは大昔からたいして変わっていないと思う。問題は、そのエッセンスをどう伝えるか。今の時代に合うよう上手く料理するのが、著者の腕のみせどころといえるだろう。
本書の著者は、ミリオンセラーになった『夢をかなえるゾウ』の水野敬也氏。軽妙な語り口でテンポ良く描くところがうまい。

ただどうも、私は著者と笑いのツボが違うみたいだ。
上司からの「クビ」宣告を「チクビ」の聞き間違えと思い込む場面は可笑しかったが、読み進めていくと「ここ、笑いどころですよ」と押し付けられているようでうんざりした。
主人公アレックスの行動も、やり過ぎである。この類の本の場合、設定が現実離れしているのはともかく、主人公の行動が突飛だと読み手としては興ざめしてしまう。「んな、バカな!」と突っ込む楽しさはあるが。
楽しい一冊だが、心を揺さぶられなかったというのが正直なところである。これなら、オグ・マンディーノの本を読む方がいい。
とはいえ、30分足らずでさくさく読める文庫本なので、通勤電車の読書に丁度いいかもしれない。
[ 2008/07/11 ] マ行の作家 | CM(4) | TB(0)

『犬身』 松浦理英子

犬身
犬が好きだ。犬の姿を見ると、いくぶん心拍数が上がってしまう。全体をくまなく撫で回し、肉球を触り、お返しに顔中を舐めてもらいたくなる衝動に駆られる。
心ゆくまで犬と触れ合いたい、と願う犬好きは多い。しかし、本書の主人公は思うだけに留まらず、自分が犬そのものになってしまうのである。

松浦理英子の作品を読むのは初めてなので、どのような作風で書く人なのか知らないけれど、本書がいっぷう変わった小説であることは間違いない。比喩や隠喩を用いて読者を煙に巻く小説に対して、真っ向勝負を挑んでいるかのようである。
『ファウスト』をモチーフにしたであろう魂の契約のくだりから、通俗的な家族問題に至るまで、捉えようによってはさまざまに表情を変える作品であるが、私は至極まっとうな恋愛小説と思って読んだ。
ただ、「恋愛」と言い切ると、この作品を狭めてしまうことになりかねない。ここで描かれるのは、広く関係や情愛といったものである。
[ 2008/04/16 ] マ行の作家 | CM(0) | TB(0)

『錦繍』 宮本輝

錦繍 (新潮文庫)
『錦繍』は、傑作だと思う。
いくつか気に入らない表現はあるものの(「ちょうど相撲に譬えると…」(P.124)のくだりや、育ちの良い女性が「浪花女のド根性」という言葉を使うことの違和感など)、それでもやはり素晴らしい小説である。
あらすじや、男女の往復書簡で綴られていく小説形式ついては、後ろの解説や他のレビューサイトに詳しいので、そちらに譲ることにする。ここでは、宮本輝さんがこの作品で用いている「生命」という言葉の意味について考えてみたい。
[ 2008/03/13 ] マ行の作家 | CM(0) | TB(0)

『鹿男あをによし』 万城目学

鹿男あをによし
★★★☆☆

行楽シーズン真っ盛り。この時期や、正倉院展、お水取りなどのビッグイベント時、奈良には大勢の観光客が訪れる。
奈良県民と観光客を見分ける、一番手っ取り早い方法がある。
それは、鹿に対してどんな反応をするか。地元民は鹿を見ても素通りするが、観光客は「わぁ、鹿だ!」と近づいていく。私の場合、鹿よりむしろ犬が一匹で道を歩いている方が驚く。何の役にも立たない情報であるが、鹿と奈良県民は、それほど密接な関係なのだ。
[ 2007/10/08 ] マ行の作家 | CM(0) | TB(2)

『ポルポトの掌』 三輪太郎

ポル・ポトの掌
★★★☆☆

1994年、内戦続くカンボジアの空港に、一人の日本人男性が降り立つ。
31歳で株ディーラーを引退した男は、生涯のライバル・賀来修一の生死を確認するために、この地に足を踏み入れたのだった。
本書の中で、男は「ぼく」としか書かれていない。周りの人間の名前は明らかにされているのに、だ。けれど、主人公の名前を知ることは、あまり問題ではないのだろう。語り手の「ぼく」は、大海原の中で頼りなげに浮かぶちっぽけな小船のような存在に思える。
[ 2007/10/04 ] マ行の作家 | CM(0) | TB(0)