カテゴリー [ アンソロジー ]
『ヴィンテージ・セブン』


去年出た『ヴィンテージ・シックス』には読み応えのある短篇が揃っていたので、今回は迷うことなく手に取った。
このワインにまつわるアンソロジー、てっきり単発ものだと思っていたが、毎年一冊出していくつもりなのだろうか。
本書には、5人の作家によるワインを絡めた物語が収められている。どうせなら7人にすればよかったのに、と妙に数にこだわってしまう。
『くだものだもの』 俵万智 選
『おいしい話 料理小説傑作選』

けっこう毒も含まれてます ★★★☆☆
「おいしい話」と大きく書かれたタイトルの誘惑に負けて、思わず購入。出版社側の思惑にまんまとはまってしまったようで悔しいが、食べものが出てくる物語が好きなのだから仕方がない。
本書には、12人の作家による料理短篇小説が収められている。
シチュー、ぶり大根、鮟鱇鍋、鶏肉の煮込み、ババロワ、中華粥、コンソメ、カキ氷、いのしし鍋、たこやきなど、前菜からデザートまで幅広い料理が登場する。
こういったアンソロジー本で注意しなければならないのは、集められた作品には編者の好みが色濃く出る、ということ。
私は、読むとお腹が空いてくるような、ほのぼのとした小説が好きなので、正直本書は期待はずれだった。さまざまなテイストの物語を取り揃えているとはいえ、かなり毒気の強いアンソロジーである。
阿刀田高「わたし食べる人」、辺見庸「コンソメ」、田中啓文「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け」は、スタンリイ・エリンの『特別料理』を彷彿とさせ、ぞっとした。
一口に「食べる」といってもそこには色々な意味が含まれている。以前読んだ大平健・『食の精神病理』で、「食べるとは愛情を取り込む行為」という意味のことが書いてあってなるほど、と思ったのを思い出した。美食を追い求めるあまり、自分を見失わないようにしなければ。
小川洋子「料理教室」は、「消える」をテーマにしてきた彼女には珍しく、「消えていたものが出てくる」物語である。特に意味のある内容ではないが、料理教室の先生と生徒の「わたし」との対比がおもしろい。
小林信彦「ババロワばあさん」は、本書の中で一番バカバカしいユーモア小説。今、「ババロワ」と変換キーを押したら「婆ロワ」になって笑った。
不思議な読後感を残すのが、金井美恵子「家族アルバム」。それぞれ別の食材で食中毒死した祖父・父・母の思い出が、兄弟の口を借りて飄々と語られる。
本書のベストを選ぶとすれば、名作・清水義範「ぶり大根」もいいが、最後に納められた田辺聖子「たこやき多情」だろうか。これを読めば、熱々のたこやきが今すぐ食べたくなるはず。ラストに落ちがあって、関西人の「呼吸」を堪能できる作品である。
現在絶版になっていて手に入りにくいものと出会えるのも、本書の魅力だろう。
『ヴィンテージ・シックス』

ワイン片手に ★★★★☆
ワインにまつわる6つの物語。
中堅・ベテラン作家で手堅くまとめられている(ちなみに、全員が直木賞受賞者)。本書は、新鮮さがないかわりに、年月を経たワインのように、熟成された味のあるアンソロジーに仕上がっている。
大手企業・サントリーが協力しているものの、それほど商業主義的な色合いは感じられない。こういったアンソロジーは、内容が軽めのものが多いのだが、本書に収録された作品は、傑作短編集の一編に選んでもおかしくないほど、どれも完成度が高い。それほど期待せずに読んだことを差し引いたとしても、本書は良質の作品集である。
とはいっても、ワインを物語の中で上手く演出しているのは、角田光代、重松清だけで、他はとってつけたような印象が強い。
篠田節子の「天使の分け前」は、各国首脳を招いた、フランスでの晩餐会を舞台にしている。題材のワインを前面に押し出した物語で、テーマも分かるのだが、ドタバタし過ぎてしまって心に残らない。
反対に、じっくり読ませるのが、石田衣良、角田光代、重松清の作品である。
石田衣良の「父の手」は、東京での仕事を辞め、実家に帰って来ると言った息子に対して、年老いた父親が放つ言葉が、胸を打つ。要所でびしっと決める、父親の存在の大きさを感じられる作品である。
重松清の「ひとしずく」は、妻の誕生日にワインをプレゼントしようとする中年男性の物語。
普段は冴えない男が、妻と同じ年に生まれたワイン(バースディ・ヴィンテージワイン)で、格好よく決めようと目論むものの、予想外の事態が起こってあたふたする姿は、滑稽で哀愁漂う。これを、単に笑いで終わらせないところが、重松清の力量だろう。ほんのひとしずくのワインに、夫婦愛を語らせる手腕は、見事のひと言に尽きる。
私が、本書の中でベストの一編を選ぶなら、それは、角田光代の「トカイ行き」だ。
失恋と失業のダブルパンチに見舞われた女性が、世間と自分を切り離そうと思い立ち、ハンガリーへの一人旅をする物語で、異国の地での出会いによって、主人公の心境が変化する様子が上手く描かれている。
不運続きでどんなに気持ちが落ち込んでいたとしても、人間は、ちょっとしたことで心が変わり、明るい未来を描けるもの。爽やかな読後感を残す作品である。
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