ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『あなたに不利な証拠として』 ローリー・リン・ドラモンド

売れに売れ、あちこちで絶賛の嵐を巻き起こした作品を改めて紹介するのは、どうも気後れしてしまう。さんざん盛り上がった祭りの後にひょこひょこ顔を出すような、タイミングの悪さを感じる。ベストセラー本を敬遠しがちの私だが、今回文庫化されたのを機に読んでみた。

あなたに不利な証拠として
  • ローリー・リン・ドラモンド、駒月 雅子
  • 早川書房
  • 798円
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書評/ミステリ・サスペンス

「ハヤカワ・ポケットミステリ」というコアなミステリー愛読者しか知らないような叢書の一冊がこれほど多くの人に読まれたのは、作品自体の力はもちろんだが、池上冬樹氏の強力な後押しがあったからだと思う。朝日新聞の書評欄に載ったとき、その熱を帯びた力強い文章に引きつけられたのは私だけではないはず。
五回は読み返した、という氏には、読解力も思い入れの深さも負けるが、私も三回読み返してみた。正直、最初読んだときは、作品を流れる沈鬱なトーンに気が滅入った。心温まる物語を望む人には、あまりおすすめできない。けれど、心を揺さぶられるような「すごい」小説を読みたいなら、手に取ってみてほしい。読み返すほどに感じるものが多い作品なのだ。
[ 2008/04/24 ] アメリカ文学 | CM(0) | TB(1)

『アメリカにいる、きみ』 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

アメリカにいる、きみ
しぼりたてのヤシ油が何色をしているか、ご存知だろうか。
正解は本書に書かれているが、おそらくほとんどの日本人が答えられないだろう。そして、ヤシ油の色を知らないのと同じように、アフリカやそこで暮らす人々のことを私たちは、いや私は、何も分かっていないのだ。

『アメリカにいる、きみ』は、ナイジェリア出身の作家・チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの短篇集である。30歳という若さにして、既に2冊の長篇小説と20を越える短篇を発表しており、アメリカでは高い評価を受けている。本書は、数ある作品の中から10篇を選んで翻訳された日本語版オリジナル短篇集となる。
こんな粒ぞろいの短篇小説を読むと、ぞくぞくしてしまう。どれも素晴らしいが、なかでも表題作・「アメリカにいる、きみ」、O・ヘンリー賞受賞作・「アメリカ大使館」「スカーフ―ひそかな経験」は傑作である。重層的なストーリー展開や、繊細な心理描写が絶妙なのだ。
[ 2008/03/25 ] アメリカ文学 | CM(4) | TB(1)

『通訳/インタープリター』 スキ・キム

通訳/インタープリター
いわゆる「ロス疑惑」と呼ばれる事件を巡る報道で私が最も関心をもったのは、「真実は何か」ということではなく、「アジア特捜隊」なる存在だった。専門部署を設けるほど、アメリカにはアジア人(の犯罪)が多いという事実に驚いたのだ。その時はそれ以上深く考えなかったのだが、本書を読んでふっと思い出した。

主人公・スージーは、裁判所の通訳を務める29歳の女性。幼い頃、家族で韓国からアメリカに渡った移民である。
彼女は、自身のことを一・五世と捉えている。韓国で育った一世の両親とも、アメリカ生れの二世とも違う。この一・五世という言葉に、二つの国の間でさまよい、どちらにも属することのできないスージーの苦悩が表れている。

バイリンガルであるということ、多文化であるということは、ひとつの心にふたつの世界をもたらすに違いないが、スージーにとっては、虚ろさが永遠に続くことを意味していた。ひとつの文化を愛するためには、もうひとつの文化も愛する必要があると思われる。文化的な経験をいくら積み上げても、さらなる一体感、帰属感を生み出すことはない。(P.181)

[ 2008/03/20 ] アメリカ文学 | CM(2) | TB(0)

『君のためなら千回でも』 カーレド・ホッセイニ

リビアの小さな赤い実物語を追いながら、以前読んだ『リビアの小さな赤い実』(ヒシャーム・マタール著)という作品を思い出していた。亡命して異国で暮らす作者や、アフガニスタンとイランという舞台設定、良心の呵責に苛まれる主人公が少年時代を追想する構成など、重なり合う部分が多いのだ。
翻訳作品を読む楽しみのひとつは、その国の文化や風土を感じられることだが、中近東を舞台にした小説には、日本とあまりに異なる情勢や慣習に驚かされる。
「人格」というものが、どのようにして形づくられていくものなのかは分からない。だが、さまざまな民族や宗教が混在する複雑さに加え、長年積み重ねられた歴史的背景、男女差や身分差などが厳然と存在する環境で生まれ育つことが、一個の人間に少なからず影響を与えることは間違いないだろう。
[ 2008/03/04 ] アメリカ文学 | CM(2) | TB(0)

『フィレンツェ幻書行』 ロバート・ヘレンガ

フィレンツェ幻書行
★★★★☆

製本の先生に薦められて読んだ一冊。
この作品は、1966年11月に起こったフィレンツェ大洪水と、被害を受けた書物や絵画などの芸術作品を救うため、世界中から終結したボランティアのエピソードが背景になっている。
以前、水浸しになった本の写真を見たことがあるが、ひどい有り様だった。紙が水に濡れるとどんな状態になるか、だいたい想像できると思う。表紙は痛み、ページは膨張してところどころ破れている。修復後の写真も見たが、元通りとはいえないまでも、あの状態がよくここまで、というくらい見事に修復されていた。そこからは、修復家たちの執念がひしひしと伝わってきた。
[ 2007/10/17 ] アメリカ文学 | CM(2) | TB(0)