ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『山猫』 トマージ・ディ・ランペドゥーサ

山猫 (岩波文庫 赤 716-1)
長靴の爪先にある三角形の島・シチリア。
古くはローマ市民を震え上がらせたハンニバルで有名だが、本書はイタリア統一に揺れる時代を描いた物語だ。今でこそ「イタリア」と呼んでいるが、この頃はまだ7カ国の集合体に過ぎず、統一国家が誕生したのは1861年になってから。シチリアは、両シチリア王国が治める独立国家だった。
・・・と、私のように昔習った世界史の記憶を必死でたぐり寄せなくとも、巻末の解説を参照すればこと足りる(後で気づいた)。この作品では歴史は背景に過ぎず、物語の中心となるのは名門貴族サリーナ家の当主・ドン・ファブリーツィオ公爵である。彼の目から見たシチリアや人々、胸に去来する思いが情感たっぷりに描かれた作品なのだ。半世紀にわたる一族の興亡は、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』を彷彿とさせる。
[ 2008/07/08 ] その他文学 | CM(0) | TB(0)

『巨匠とマルガリータ』 ミハイル・ブルガーコフ

巨匠とマルガリータ (世界文学全集 1-5) (世界文学全集 1-5) (世界文学全集 1-5)
モスクワの公園で、神の実在性を論じ合う二人の文学者。
そこに外国人らしき怪しげな男が現れて、彼らの会話に割り込んでくる。<教授>と名乗るその男が自信たっぷりに「イエスは存在していた」と話し始めるところで場面は一転し、捕らえられたイエスを尋問するローマ総督ポンティウス・ピラトゥスが登場。舞台は再び公園に戻り、やがて<教授>の予言どおり衝撃的な出来事が次々と起こっていく。
<教授>の正体が悪魔であることはすぐ明らかになるものの、この悪魔ヴォランドが4人の手下を従えてモスクワ中を大パニックに陥れる乱暴狼藉ぶりは、常軌を逸している。とりわけ、文学・演劇関係者への攻撃はすさまじい。非業の最期を遂げる者、精神病院に送り込まれる者、遠くへ飛ばされる者など、執拗なまでに痛めつけられるのだ。
[ 2008/07/01 ] その他文学 | CM(2) | TB(0)

『諸国物語』 ポプラ社篇

諸国物語
ポプラ社創業60周年特別企画として刊行された世界文学アンソロジー。出版社の気合と自負が感じられる重厚な一冊である。
ただ豪華なだけに値も張るので、購入に二の足を踏む人は少なくないのではないだろうか。そこで、『諸国物語』のサイトに載っている特色に沿って、本書を紹介してみようと思う。

1.ラインナップ
やはりアンソロジーで一番気になるのは、誰の、どんな作品が収録されているか、ということである。本書には、19世紀〜20世紀前半に活躍した文豪の中・短篇小説が、21篇収められている。奇怪なものから、恋愛、海洋ロマンに至るまで、さまざまなテイストの物語が楽しめる。全体的に、丁寧な心理描写で心あたたまる作品が多い。
それにしても、どこから見つけてきたのかと思うほどの、有名どころを外した選出である。「知られざる傑作」の謳い文句は、伊達じゃない。「白鯨」のメルヴィルは知っていても、「バートルビー」を読んだ人はあまりいないのではないだろうか?全集でしかお目にかかれないような作品や、いまや入手困難のものをこの一冊で読めるのは嬉しい。
とはいえ、いかに傑作といわれても、自分の好みに合わないものもある。つまらなく感じたものほど長い作品なのが辛かった。
[ 2008/05/13 ] その他文学 | CM(0) | TB(0)

『風の影(上・下)』 カルロス・ルイス サフォン

風の影〈上〉 (集英社文庫)風の影〈下〉 (集英社文庫)
★★★★★
発売当初から話題になっていた本書を、遅ればせながら読んだ。
とにかく、おもしろい。上下巻合わせて800ページを超すボリュームのある作品だが、全く長さを感じることなく、時間を忘れて読みふけってしまった。

舞台は、1945年のスペイン・バルセロナ。
10歳の少年・ダニエルは、古書店を営む父親に連れられて行った“忘れられた本の墓場”で、一冊の本と出合う。『風の影』というタイトルの本に夢中になったダニエルは、作者のフリアン・カラックスに興味を持ち始める。ヴェールに包まれたカラックスの正体(過去)を調べるにつれて明らかになってくる、悲しい物語。
本書は、一冊の本から浮かび上がる、愛と憎悪、時代に翻弄された人間たちの姿を描いたミステリーである。
[ 2007/08/12 ] その他文学 | CM(2) | TB(2)

『落葉』 G・ガルシア=マルケス

ガルシア=マルケスの描く“生”と“死” ★★★☆☆

高校生の頃、死ぬのが怖くてたまらなかった。
身近にいる人が亡くなった訳でも、逼迫した状況にあった訳でもない。将来のことをぼんやり考えていると、急に“死”が現実的なものとして迫ってきたのだ。目の前にはいくつかの選択肢があり、この先どんな人生を歩んでいくのかは不確かなものだったが、ただひとつ、「自分が死ぬ」ということだけは100%確実な未来だった。もしかしたら5分後には心臓が止まってしまうかもしれない。自分のすぐ側にある“死”の存在に気づいた時、ぞっとした。勉強、人間関係、クラブなど、他に悩むことはたくさんあったのに、最も私の心を占めていたのはこのことだった。
多分、「死ぬこと」そのものよりも、その先に何があるか分からないことが恐怖だったのだと思う。テレビの電源を切るようにプツンと消えてしまうのか、違う世界が広がっているのか。“死”がいつやって来てもおかしくないのに、家族や友だちが平然としていられるのが不思議だった。この時ほど、孤独を感じたことはない。
この頃本書に出会っていたら、私の心はいくらか軽くなっていたと思う。
[ 2007/06/07 ] その他文学 | CM(0) | TB(0)