ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『歌姫あるいは闘士 ジョセフィン・ベイカー』 荒このみ

★★★★★

ローザ・パークス女史が理不尽な要求に「ノー」を突きつけ、キング牧師が壮大な夢を語る数年前に、アメリカにおける黒人差別に対して闘いを挑んだ一人の女性がいた。その名は、ジョセフィン・ベイカー。
本書は、彼女の波乱に満ちた生涯を綴った一冊である。

歌姫あるいは闘士 ジョセフィン・ベイカー
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livedoor BOOKS
書評/ルポルタージュ


アフリカン・アメリカンの極貧家庭で生まれ育ったジョセフィンは、天性の素質と努力によって、プロの踊り子・歌手として活躍する。その後、フランス・パリへと渡り、その表現の美しさ、自然の躍動感で観客を魅了し、一躍トップスターの仲間入りに。
それだけでも充分サクセス・ストーリーとして一冊の本になりそうだが、彼女の真の偉大さは、その地位に安住することなく、祖国で虐げられていた同胞の尊厳を守るために生涯を捧げた生き方にある。本書は、一人の歌姫の人生を追った伝記であるとともに、アメリカでの公民権運動を記録した歴史書でもあるのだ。

なかでも、1951年にニューヨークの上流階級が集まるクラブで起きた「ストーク・クラブ事件」を描いた第五章は、当時の黒人差別の現状と、彼女の揺るぎない信念を端的に知ることができ、読み応えがある。
州法で人種差別の禁止を謳いながら止むことのない黒人への給仕拒否の慣行や、その差別待遇を見て見ぬふりする著名なジャーナリストに対して、ジョセフィンは徹底的に闘うことを決意。事件が起きたクラブが、アメリカ文化の中心的位置を占めていたから余計に、彼女は引き下がる訳にはいかなかったのだ。

この事件は、約50年前の出来事である。だが、人々に異なるものを受け入れられない偏狭な心がある限り、差別は姿かたちを変えてあらゆる場所で生まれてくる。だからこそ、分け隔てなく人間を愛したジョセフィンの生き方から学ぶ意味は大きい。
本書から見えてくる彼女は、常に一人で闘っている。欠点もあったが、特定の宗教やイデオロギーに与することなく、自身の信念に従って行動する姿に、人間としての強さを感じた。彼女の踊りが観客の心をつかんだのは、なにより内面が輝いていたからなのだと思う。
私が感動したのが、ジョセフィンの葬儀の場面。葬儀に来た人数で故人の人望が推し量れるなら、彼女はたくさんの人に愛された幸せな女性だったにちがいない。2枚の写真がそれを物語っている。

ジョセフィンは晩年、肌の色や宗教の違いによる差別のない世界の建設に向けて、人種や文化の異なる子供たちを12人も養子に迎え入れ、「虹の部族」という理想郷を作り上げる。その出発点が、いわゆる「占領軍ベイビー」と呼ばれた日本の子供であったというのは、特筆に価する。
本書を読むまでジョセフィン・ベイカーの名前すら知らなかった私が言うのもはばかられるが、日本と縁の深い人権の闘士を、もっと評価してもいいのではないだろうか。

本書は、本が好き!経由で献本していただきました。
[ 2007/08/31 ] 歴史・伝記 | CM(0) | TB(0)
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