『ぼくの心の闇の声』 ロバート・コーミア


主人公は、ヘンリーという名前の11歳の少年。
兄を事故で亡くした悲しみから立ち直れない両親を助け、町の食料品店で必死に働く。ある日彼は、ナチス・ドイツの強制収容所を生き抜いた一人の老人と出会う。老人は、木彫りのミニチュア人形で、失われた故郷の村を甦らせようとしていたのだ。
その姿に心を打たれた彼は、意地の悪い雇い主の店主に、うっかり老人のことを話してしまい、ある選択を迫られることになる。
本書は、心の優しい少年が日常の中に潜む悪に直面し、たった一人で立ち向かう姿を描いた物語である。
コーミア作品だから覚悟していたものの、やはり容赦なく厳しい。
心の病気を抱えた父親、逼迫した家計、同級生からのいじめ、横暴な店主など、これでもかというくらい、ヘンリーに次々と不幸が襲い掛かってくる。徐々に追い詰められていくヘンリーの姿が痛々しくて、読み進めていくのが本当に苦しい。ここまで追いつめなくても…。それでも、途中で本を投げ出すことができない。
コーミアの作品は、得てしてその衝撃的な内容に目が奪われがちだが、彼の魅力は簡潔な文体と巧みな構成力にあると思う(他の作品のレビューでも書いているが)。だから、目を背けたくなる内容でも、否応なく物語の世界に引きずり込まれてしまうのだ。
絶望的なラストで有名な『チョコレート・ウォー』に比べればソフトな印象を受けるが(ロバート・コーミアで最初に読んだのがこの作品だったので、どうしてもこれと比較する)、本書も決して甘くない。
もし自分がヘンリーの立場だったら、どうするだろうか。何を守り、何を選ぶだろうか。ふと、そんなことを考えてしまう。
ヘンリーの行動が正しかったかどうか、正直なところ、私には分からない。ただ本書は、誰でも何かに立ち向かう時があることを教えてくれる。その時、どうするのか―。ヘンリーの言葉が、深い意味をもって迫ってくるのだ。
「肝心なのは、ぼくがあの人に立ち向かったってことさ」
■原書で読む

Tunes for Bears to Dance to
Robert Cormier
Laurel Leaf 1994-05
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