ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『鹿男あをによし』 万城目学

鹿男あをによし
★★★☆☆

行楽シーズン真っ盛り。この時期や、正倉院展、お水取りなどのビッグイベント時、奈良には大勢の観光客が訪れる。
奈良県民と観光客を見分ける、一番手っ取り早い方法がある。
それは、鹿に対してどんな反応をするか。地元民は鹿を見ても素通りするが、観光客は「わぁ、鹿だ!」と近づいていく。私の場合、鹿よりむしろ犬が一匹で道を歩いている方が驚く。何の役にも立たない情報であるが、鹿と奈良県民は、それほど密接な関係なのだ。

タイトルを見れば一目瞭然、本書は奈良を舞台にした物語である。
主人公は、一学期限りで奈良の女子高に赴任することになった28歳の大学の研究員。気の乗らない教師職、反抗的な生徒たち、慣れない環境に戸惑っていた時、一頭の雌鹿が人間の言葉で話しかけてきた。混乱する彼に鹿が言うには、あるものを京都から奈良へ無事届けなければ、日本は滅んでしまうという。否応なしに、主人公は古代から続く儀式に巻き込まれていく。

鴨川ホルモー
京都が舞台の前作・『鴨川ホルモー』と同じく、本書もその土地の雰囲気がうまく出ている。
近鉄沿線から眺める平城旧跡、県庁裏手の民家から東大寺・転害門に至る細い道、あちこちで目にする鹿…。一度でも奈良を訪れたことのある人は、その情景がありありと浮かんでくるだろう。奈良健康ランドや近鉄駅前の行基像で待ち合わせなど、ローカルな話題満載でニヤリとしてしまう。
本書は、数千年前の神話や史実が想像と織り交ぜて展開されるが、物語としては主人公の周辺ですべて完結する。この、壮大なテーマを小さく狭く描いているところが、評価の分かれるところだろう。
歴史ミステリーとしてみれば、先が早い段階で読めてしまうし、根拠も薄弱なので物足りない。だが、エンターテイメントとしては、楽しめる作品だ。鹿・狐・鼠の動物が人間と話したり、鹿の大好物がポッキーという設定は楽しい。この作品にとって歴史を巡る謎は物語の中心ではなく、あくまで背景なのだろう。

ただ、エンタメに徹するのであれ、登場人物の描写が少し軽いのが気になる。
美人のマドンナ、熱い体育教師、ダンディな教頭など、個性豊かな教師陣が登場するが、夏目漱石の『坊ちゃん』には及ばない。キャラクターという点では、前作の方がおもしろかった。物語の熱気も少し弱まったのではないか。剣道の試合のシーンは本書の中で一番丁寧に描かれていて読ませるのだが、無理矢理クライマックスをもってきたような印象を受けた。
この作品で、いっそう「奈良=鹿」というイメージが定着してしまう気がする。鹿だけじゃないんだけどなぁ。
[ 2007/10/08 ] マ行の作家 | CM(0) | TB(2)
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万城目学『鹿男あをによし』 幻冬舎 2007年4月10日発行 「神経衰弱」を理由に大学院の研究室から奈良の女子高の臨時講師に飛ばされたおれ。 「奈良では人は鹿に乗るんですよ」とうそぶく女生徒に辟易し、 さらに下された空前絶後の救国指令!! どうなる、おれ!? ...
[2007/10/14 20:51] 多趣味が趣味♪
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