ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『秋の牢獄』 恒川光太郎

秋の牢獄
赤と黄に彩られたカバーをめくると、柿色の表紙が目に飛び込む。花布は渋い緑、しおりはこげ茶。和の色でまとめ上げられた装丁は、秋のイメージそのままである。見返しの使い方もおもしろい。装丁は、片岡忠彦氏。
本書は、その装丁が表現しているように、和の雰囲気が色濃く漂う和製ファンタジーである。いや、ホラーといってもいいかもしれない。デビュー作・『夜市』ほどのインパクトはないものの、ひそやかな中に底知れぬ闇の広がる世界は、独特である。

三つの中篇からなる本書の登場人物はみな、何かに囚われている。ある者は時間に、ある者は家に、ある者は人に。
「牢獄」というと絶望的で悲壮な負のイメージに結びつくが、恒川さんの描く物語では少し異なる。登場人物たちは、必ずしも囚われることに不快感を抱いているわけではないのだ。
自由でありたい、と大抵の人間は願う。なにものにも屈せず、自分の好きなことをし、自分の意思で選び取る。世界史を紐解けば、それは自由を勝ち取るための闘争の歴史であった。
しかし、自由は本当に素晴らしいことなのだろうか。自由であることの窮屈さを感じたことはないのか。お前は心のどこかで、なにかに束縛されることを望んでいるのではないのか。そんな囁きが、本書からは聞こえてくる。自分の心の奥底に潜む暗い欲求をそっと指摘されたようで、ぎくりとしてしまう。

一日を繰り返すという設定は、ケン・グリムウッドの『リプレイ』や北村薫さんの『ターン』といった既存の作品があるので、なにも目新しいものではない。ただ、「秋の牢獄」には、どこへ行くのか分からない不確かさに包まれており、怖いもの見たさでその先を覗いてみたくなるのだ。
「神家没落」は、動く建造物という設定は同じなのに、『ハウルの動く城』の牧歌的な雰囲気はなく、忘れ去られ、消えゆくものへ捧げられた追悼歌のような作品である。
最後に収められた、「幻は夜に成長する」を読んでふと思った。三つの物語で登場人物たちが迷い込む世界は、実は人間の心の中なのではないだろうか、と。もしかすると、人間の内部には、外の世界よりもずっと深遠な世界が広がっているのかもしれない。
[ 2008/03/17 ] タ行の作家 | CM(0) | TB(1)
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する
この記事のトラックバックURL


 この本には三つのお話が詰め込まれている。タイトルの『秋の牢獄』のほか、『神家没落』、『幻は夜に成長する』の三篇である。 著者の恒川光太郎は2005年に『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞し、いきなり直木賞候補となった脅威の新人である。そのじっと...
[2008/04/13 11:17] ケントのたそがれ劇場