ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『アメリカにいる、きみ』 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

アメリカにいる、きみ
しぼりたてのヤシ油が何色をしているか、ご存知だろうか。
正解は本書に書かれているが、おそらくほとんどの日本人が答えられないだろう。そして、ヤシ油の色を知らないのと同じように、アフリカやそこで暮らす人々のことを私たちは、いや私は、何も分かっていないのだ。

『アメリカにいる、きみ』は、ナイジェリア出身の作家・チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの短篇集である。30歳という若さにして、既に2冊の長篇小説と20を越える短篇を発表しており、アメリカでは高い評価を受けている。本書は、数ある作品の中から10篇を選んで翻訳された日本語版オリジナル短篇集となる。
こんな粒ぞろいの短篇小説を読むと、ぞくぞくしてしまう。どれも素晴らしいが、なかでも表題作・「アメリカにいる、きみ」、O・ヘンリー賞受賞作・「アメリカ大使館」「スカーフ―ひそかな経験」は傑作である。重層的なストーリー展開や、繊細な心理描写が絶妙なのだ。

例えば「アメリカ大使館」では、ひとりの女性が難民ヴィザを取得するためアメリカ大使館に並ぶところから、面接官と対面するまでのひとコマを描いている。照りつける太陽のもとで大勢の人間が列をつくって待っている中、彼女はここに至るまでの苦い出来事を思い起こし始めるのだ。
この作品に、ナイジェリアの現状をみることができるかもしれない。けれど作者は、あくまでひとりの女性の個人的な体験として、彼女の心の襞に分け入るようにしてその悲しみを描いていくのである。
この手法は、作品全体にみられる。
「スカーフ―ひそかな経験」やナイジェリアの内戦・ビアフラ戦争を描いた「半分のぼった黄色い太陽」でも、宗教・民族対立といった抽象的な問題としてではなく、一人一人の身に起こった出来事として捉えているのだ。作者は、暗殺や紛争、同性愛といった、ともすれば読み手が身構えてしまいがちな題材を、するりと物語の中に入り込ませ、個人の心象風景を取り出してみせるのが本当にうまい。

私たちはよく、アフリカの人々を「アフリカ人」と呼ぶが、厳密に言えば、正しい表現ではないだろう。「アフリカ人」の中には、ナイジェリア人やケニア人がいる。そして、ナイジェリア人の中には、キリスト教徒のイボ族やイスラム教徒のハウサ族がおり、同じ民族同士でも、高等教育を受けられる裕福な者がいれば、貧しくて学校に通えない者もいる。
本書で描かれるのは、多様で複雑なアフリカの姿である。ここに収められた作品を読むと、これまでいかに自分が平面的な認識しかしてこなかったか、思い知らされるのだ。アフリカ系移民が、アメリカ人たちが呼びやすいような名前に変えるなんて、初めて知った。
本書は、けっして重苦しくはないが、ずしりとした読後感を残す一冊である。次はこの作者の長篇小説を翻訳出版してほしいと、切に願う。
[ 2008/03/25 ] アメリカ文学 | CM(4) | TB(1)
これはすごく読みたい!
でも1890円って高いですよね〜
また図書館通いを再開しようかな
[ 2008/03/25 23:09 ] [ 編集 ]
このModern&Classicシリーズっていい作品が多いけど、値段がちょっと高めなんですよね・・・。
でも、オススメですよ。
短篇でここまでできるのか!と感心しました。
[ 2008/03/26 22:31 ] [ 編集 ]
読みました!図書館で借りて。
これは本当に素晴らしい短編集ですね!
紹介してもらってありがとうございました。
本当に他の作品もぜひ早く翻訳してもらいたいものです。
TBしておきます。
[ 2008/04/12 23:18 ] [ 編集 ]
なんか自分が褒められたみたいで嬉しいです。
長篇、読んでみたいですよね。
[ 2008/04/13 21:25 ] [ 編集 ]
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 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェはナイジェリア出身アメリカ在住の、1977年生まれの女性作家。  1977年生まれという事は、今年31歳と非...
[2008/04/12 23:15] P&M Blog