『ホーミニ・リッジ学校の奇跡!』 リチャード・ペック
小学生の私にとって大雨洪水警報は、まさに天から降ってくるプレゼントに思えたものだ。
警報が出れば、学校は休みになる。朝起きて外がざあざあ降りになっていようものなら、「今日はイケるんじゃないか」と淡い期待を胸に、登校時間ギリギリまで粘っていた。同じように、風邪が流行って学級閉鎖になったときもはしゃぎ回っていた。
もちろん、子どもたちを学校から解放することが、警報や学級閉鎖の目的ではない。困っている人たちを尻目に、己のちっぽけな喜びに浮かれていたのだから、なんて不謹慎だったのだろう。それでも、学校嫌いの子どもにとってはそこから一時でも逃れられれば、なんだって嬉しいものなのだ。

ホーミニ・リッジ学校の奇跡!
書評/海外純文学

15歳の少年・ラッセルは、大の学校嫌い。つまらない勉強をさっさとやめて、脱穀の仕事に携わりたいと夢見ている。
夏休みも終わりに近づいたある日、一人しかいない教師が突然この世を去ってしまう。その報せを聞いたラッセルら生徒は、先生の死を悼むどころか、「これで学校が閉鎖される!」と大喜び。ところが、代理教師がやって来て、しかもそれがラッセルの姉だったものだから、一気に奈落の底へ突き落とされてしまう。
20世紀初めの故郷・イリノイ州を舞台にした作品を多く書いてきた作者のリチャード・ペックは、もともと教師である。いつか教育を真正面から取り上げるだろうと思っていたので、いよいよ来たか、という感じである。
とはいえ、作者の目はホーミニ・リッジ学校だけに向けられているわけではなく、広くインディアナ州の農村で暮らす人々の姿を描いている。本書からは、日々の生活すべてが子どもたちにとって「学びの場」なのだ、という信念に近い思いが伝わってくる。
約100年前の暮らしぶりを、生き生きと紡ぎ出すペックの手腕はさすがである。本書では、カバー絵になっている馬車と車の往来事故といった象徴的な場面を挿入することで、発展途上にある時代を軽やかに切り取ってみせる。
私がペックの作品を好きなのは、彼が有名な人間や地位の高い人間ではなく、歴史に名を残すことのないような庶民を描いているからである。
彼らは善いこともすれば、ときには悪いこともする、ごく普通の人間だ。それがペックの手にかかると、どんな権力者よりも素晴らしい存在として輝き始めるのである。本書でも、庶民賛歌とでもいうべきペックの精神は健在で、個性豊かなさまざまな人々が物語を彩っている。
作中で詠まれた詩の一節が印象的だ。
ただ、痛快でユーモラスな『シカゴよりこわい町』『シカゴより好きな町』や、歴史の重みを感じさせる『ミシシッピがくれたもの』といったこれまでの作品に比べるとあっさりし過ぎる感があって、私には少し物足りなかった。
おそらく、『シカゴより〜』の豪胆で型破りなおばあちゃんや、『ミシシッピ〜』の気位の高いデルフィーンといった物語の核となるような魅力的な人物が見当たらないことが原因だろうと思う。教師のタンジーではちょっと役不足かな。
■原書で読む

The Teacher's Funeral
Richard Peck
Puffin 2006-04-20
←「教師の葬式」という原題にびっくり。なんてそっけない。
※本書は、本が好き!経由で献本していただきました。
警報が出れば、学校は休みになる。朝起きて外がざあざあ降りになっていようものなら、「今日はイケるんじゃないか」と淡い期待を胸に、登校時間ギリギリまで粘っていた。同じように、風邪が流行って学級閉鎖になったときもはしゃぎ回っていた。
もちろん、子どもたちを学校から解放することが、警報や学級閉鎖の目的ではない。困っている人たちを尻目に、己のちっぽけな喜びに浮かれていたのだから、なんて不謹慎だったのだろう。それでも、学校嫌いの子どもにとってはそこから一時でも逃れられれば、なんだって嬉しいものなのだ。

ホーミニ・リッジ学校の奇跡!
- リチャード・ペック、斎藤 倫子
- 東京創元社
- 1890円
書評/海外純文学

15歳の少年・ラッセルは、大の学校嫌い。つまらない勉強をさっさとやめて、脱穀の仕事に携わりたいと夢見ている。
夏休みも終わりに近づいたある日、一人しかいない教師が突然この世を去ってしまう。その報せを聞いたラッセルら生徒は、先生の死を悼むどころか、「これで学校が閉鎖される!」と大喜び。ところが、代理教師がやって来て、しかもそれがラッセルの姉だったものだから、一気に奈落の底へ突き落とされてしまう。
20世紀初めの故郷・イリノイ州を舞台にした作品を多く書いてきた作者のリチャード・ペックは、もともと教師である。いつか教育を真正面から取り上げるだろうと思っていたので、いよいよ来たか、という感じである。
とはいえ、作者の目はホーミニ・リッジ学校だけに向けられているわけではなく、広くインディアナ州の農村で暮らす人々の姿を描いている。本書からは、日々の生活すべてが子どもたちにとって「学びの場」なのだ、という信念に近い思いが伝わってくる。
約100年前の暮らしぶりを、生き生きと紡ぎ出すペックの手腕はさすがである。本書では、カバー絵になっている馬車と車の往来事故といった象徴的な場面を挿入することで、発展途上にある時代を軽やかに切り取ってみせる。
私がペックの作品を好きなのは、彼が有名な人間や地位の高い人間ではなく、歴史に名を残すことのないような庶民を描いているからである。
彼らは善いこともすれば、ときには悪いこともする、ごく普通の人間だ。それがペックの手にかかると、どんな権力者よりも素晴らしい存在として輝き始めるのである。本書でも、庶民賛歌とでもいうべきペックの精神は健在で、個性豊かなさまざまな人々が物語を彩っている。
作中で詠まれた詩の一節が印象的だ。
わたしは田舎の人間。
平凡に生き、平凡に死んだ。
誰にも負けない深い愛情を家族に注ぎ、
誰にも負けない深い友情を友に抱いた。
ただ、痛快でユーモラスな『シカゴよりこわい町』『シカゴより好きな町』や、歴史の重みを感じさせる『ミシシッピがくれたもの』といったこれまでの作品に比べるとあっさりし過ぎる感があって、私には少し物足りなかった。
おそらく、『シカゴより〜』の豪胆で型破りなおばあちゃんや、『ミシシッピ〜』の気位の高いデルフィーンといった物語の核となるような魅力的な人物が見当たらないことが原因だろうと思う。教師のタンジーではちょっと役不足かな。
■原書で読む

The Teacher's Funeral
Richard Peck
Puffin 2006-04-20
←「教師の葬式」という原題にびっくり。なんてそっけない。
※本書は、本が好き!経由で献本していただきました。
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