ぐらんぼん

乱読・積読・併読の本の虫による書評。

『鼻/外套/査察官』 ニコライ・ワシーリエヴィッチ・ゴーゴリ

鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)
はじめてゴーゴリの「鼻」を読んだとき、「このおっさん、頭がおかしいんじゃないだろうか。」と思った。なんとも下品な表現ではあるが。
なにしろ、朝起きると自分の鼻がなくなっているのである。なんの前触れもなく、いきなり。しかもその鼻が、床屋が食べようとしたパンの中から出てくるのである。それで驚くのは、まだ早い。持ち主から独立した鼻は、立派な制服を着て町をのし歩いているのだから。ここまでくると、想像力の針は一気に振りきれてしまう。
外套・鼻 (岩波文庫)
私が読んだ岩波文庫には、ほかに「外套」という作品も収録されていた。そしてこれもまた、同じように変な物語なのである。
主人公は、しがない小役人。野心はなく、これといった趣味もなく、友だちと羽目を外すこともない。何が楽しくて生きているのか分からないようなこの男が、一大決心をして外套を新調する。ところが、爪に火をともすようにして買った外套を、その日のうちに追い剥ぎに奪われてしまう。
あらすじだけ書くと、男の惨めさが際立ってちっとも作品の良さが伝わらないのだが、これが滅法おもしろいのである。男の外套にかける執念、徐々に生活に張り合いが出てくる過程、仕立てた外套をもったいぶって渡す職人の姿など、真剣な人間の醸し出す滑稽さが、理屈ぬきに楽しい。

ところで、岩波文庫の解説にはこんなことが書かれていた。

ゴーゴリはこの小説の中で何人をも問責することなく、伝道者的に隣人愛を鼓舞し、哀れなる主人公アカーキイ・アカーキエウィッチ・バシマチキンの面影の中で卑小な無価値な、一個の《霊魂の乞食》の像を描き出して、こうした一顧の値打ちもない人間でも、人道主義的な愛と、尊敬にすら値することを強調しているのである。

これを読んだ中学生だった私は、「ええ〜?そんな高尚なこと書いてあったかぁ?」と疑問を感じつつも、読解力がなかったということで納得させた。ところが今回、本書の解説に書かれたゴーゴリのすさまじい人生を知り、私が抱いた「変なおっさん」というイメージもあながち見当はずれではなかったのだな、とホッとした心もちである。

「われわれはみんなゴーゴリの『外套』から生れた」とは、ドストエフスキーの有名な言葉だ。あの文豪が言うのだからさぞかし偉大な作家なのだろう、とかしこまる人は多いだろうが、私にはドストエフスキーの方がよほどバランスの取れた人物だと思う(彼も相当危ういものを抱えているように思うが)。奇天烈な設定でも、現実を直視した風刺精神みなぎり、人間の内奥を深く追求している。
対して、ゴーゴリはほんとうに変で、極端なのである。本書は、落語調の翻訳に注目が集まっているが(最初にはじめたのが江川卓氏とは知らなかった)、ゴーゴリの作品と落語がこんなにマッチするとは!ロシアが舞台なのに、「ってやんでえ!」という江戸町人風の口調が違和感なく溶け込んでいるから不思議だ。
ただ、落語と少し違うのは、ゴーゴリの作品には「サゲ(オチ)」がはっきりしていないところだと思う。「査察官」は別だが。オチのない話をしようものなら、「それで終わり?」と周りから一斉に突っ込まれるような環境で生まれ育った人間としては、ゴーゴリの“噺”はどうもすっきりしない。解説の、「ひきつった笑い」という指摘は言い得て妙である。私がもやもやしていたのは、これだったのか。
『ちびまる子ちゃん』の漫画の中に、陰気でお笑い好きな「野口さん」という女の子が出てくる。いつもページの隅っこにいるような子なのに、妙な存在感のあるキャラクターだ。なんとなくゴーゴリと野口さんのいびつな視点がダブって見えるのは、私だけだろうか。

ともあれ、私はゴーゴリの作品がとても好きなのだ。この、なんだか分からないナンセンスさが。メタファーやら高邁な思想といったものを超越した素晴らしさが、この『鼻/外套/査察官』にはあると思う。
これから本書を手に取る方は、まずまっさらな気持ちで本文から読んでみてほしい。解説から読むと、その説に引っ張られてしまうおそれがある。ナボコフの論にしたって、合っているかどうかは分からない。真意は、ゴーゴリだけが知っているのだから。

ロシア 浦雅春・翻訳
ゴーゴリと野口さんのツーショットステキ♪
こんなコンビを考えるぐらさんもステキ♪シッシッシッ!

鼻が取れるのは、NHK教育テレビのカペリートでしょ。
カペリートは森に住むきのこちゃんです。
悪い魔女の魔法でワニに変えられてしまった女王様を
助けたお礼に、つまむと何にでも変身できる魔法の鼻を
もらいました。
鼻をつまむと、”プーッ、プーッ”って音がして、
主にきのこの頭部分がいろんなものに変身するんです。
そして、森のみんなを助けてあげます。
幼児番組とあなどるなかれ!!
結構、意外な面白い掘り出し物が盛りだくさんですよ。
[ 2008/05/10 21:08 ] [ 編集 ]
鼻がなくなっていたというのは、ちょっとカフカっぽくもありますよね。こんなぶっ飛んだ作品を1830年代に書いたゴーゴリって凄いです。今読んでもちっとも古くない。
「査察官」のキャストを考えてみると面白そう。
[ 2008/05/11 01:35 ] [ 編集 ]
なんにでも変身できるっていいですね。
わたしの低い鼻でも大丈夫なんでしょうか。

カペリートは知りませんでしたが、たまたま観た落語アニメがおもしろかったです。
NHK教育、なかなかやりますね。
[ 2008/05/11 12:59 ] [ 編集 ]
「査察官」は、フレスタコフが次々と嘘をまくしたてていく場面がたまらなく好きです。
なんか憎めないんですよね〜。

piaaさんのキャスティングでは、カールスモーキー石井ですか。
なるほど。
いい歌つくるのに、たまにペテン師のように見えてしまいます。
[ 2008/05/11 13:03 ] [ 編集 ]
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